フェアトレードと共感起業

アントレプレナーシップ

共感起業大全の本を書くにあたって、フェアトレードでの事例を多く書いています。私自身とフェアトレードとの関わりや、どんなビジネスをどんな想いで実施しているのか、本書でフェアトレードを取りあげたことに対する想いなどをまとめました。

HASUNAとの出会い

私がフェアトレードという言葉に出会ったのはかなり遅く、30歳を超えてからのことです。
それまでの様々な社会的事業、そして海外との取り組みもやっていたものの、人材育成やサービスといった内容も多かったからなのかもしれません。

コモンビートを創業し急成長していた頃、社会起業家の育成プログラムのチューターの依頼を受け、私のチームに白木夏子さんが参加をしていました。そこからメンター的な役割となり、HASUNAの設立、その後経営に10年ほど関わるようになります。

途上国の鉱山採掘現場で起きている実態と、先進国で人を輝かせることとのギャップに、心が大きく動いた。

それまでの私は、在庫を持たないビジネスにこだわっていました。
このとき初めて、商品を生産するメーカーを経営し、そして海外との取引という挑戦が始まったのです。

フェアトレードとの出会い

ジュエリーの素材を採掘する鉱山労働者の人権や労働環境を守り、生活をサポートし、適切な価格で買い付けてくることが「フェアトレード」と呼ばれることは知りませんでした。

私は日々、現代のビジネスで欠落しているいろいろな仕組みを、どのように解決しながらビジネスとして成立させていくかということばかり考えていました。
HASUNAは、提供する商品をエシカルジュエリーと名付けます。
当時、CSRという言葉はありましたが、ESGやSDGsという言葉がない時代のことです。

子育てやライフスタイルの面から、拠点を東京から名古屋に移したとき、HASUNAの経営をしていたこともあって、フェアトレードの普及に関わる活動に誘われました。
それまでのフェアトレードの認識が変わり、とても素晴らしい取り組みだと感じます。ただその一方で、日本はヨーロッパなどの状況とはほど遠く、ビジネスというより運動に近いもののようにもに感じた違和感がありました。

この状況は、どうやったら変わるのだろうか?

軸足がビジネス側にいる人間としては、2つの興味を持ちます。

1つ目は、フェアトレードに関わる起業家。どのような動機によってビジネスを生み出し、どのような社会性と持続性の両立をしようとしているのか。
2つ目は、フェアトレードの経済圏。どのようなプレーヤーがどのような商流によって成り立ち、顧客がどのような形で市場形成をしているのか。

アントレプレナーシップの研究をしながら、起業家がチャレンジしたくなるような市場をつくりたいと考えていた私にとって、フェアトレードはとても興味深く感じたのです。

フェアトレードの起業家

社会起業家は、とても志を高く持っています。
ただその一方で、想いが強すぎることで、なかなかビジネスになりにくいことも課題のひとつです。
たとえば生産者や顧客との顔が見えるビジネスをするなかで、見えすぎて躊躇するシーンがたくさん生まれてしまうこともあります。

どのように社会性と経済性を両立させていくか。
私は地球一周から戻って、その両立についてこだわりたくさんの事業をつくってきました。(本書まえがきを参照。)
いわゆるボランティアや社会福祉とも違う、市場原理を伴うビジネスにおける挑戦がしたいと考えたのです。

フェアトレードに関わる起業家は、巨大な既存市場に逆行しながら、その葛藤の中でチャレンジをしていく、まさにイノベーターです。
イノベーターというと、ビジネスの世界ではテック系ばかりが注目されるけれども、経済サイクルさえも変えてしまおうという壮大な挑戦をしていることは、ちょっとすごいソリューションを技術の応用で達成しようとしている「スタートアップもどき」よりずっと革新的だと思うのです。

私がフェアトレードを通じて出会った起業家は、まさにアントレプレナーシップがそこにあるということを確信しています。

本来のあるべき「経済、社会、環境」の姿はフェアトレードの三つの柱でもあります。起業家がその想いを汲み、既存の価値観をどのように変えていくかを挑戦していく。
これがまさに、共感起業なのです。

フェアトレードの市場と経済

もしフェアトレードに市場性を感じられれば、ビジネスとして市場が大きくなっていくはずです。

フェアトレードの市場は、認証ラベルがあることによって一定の規模があることが理解できるものの、フェアトレード認証の厳格な基準の一方で、概念や理念としても存在しているので、その線引きや両立も難しいものです。

現状の認知度はまだ低いものの、学校の教育ではSDGsと並んで使われるため、10代の認知は圧倒的に高いのです。つまり、Z世代のインターネットネイティブ世代が、SDGs/フェアトレードもネイティブになることを意味しています。

私は、これからの未来を担う若者によって、フェアトレードの新しい捉え方が生まれることが必要だと考えました。
そこで、テクノロジーを活用し消費者のコミュニティを作っていくことによって、市場の可視化ができないかと考え、eumoのプラットフォーム開始ともにコミュニテイコイン第一号としてフェアトレードコインを開始しました。

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加えて、消費者行動や商流、ビジネスの構造などを理解するにあたっても、自身で取り扱いをしていく実践をしてみようと考え、フェアトレードショップをスタートさせたのです。

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消費者は、フェアトレードのどんな点に共感をしているのか。
価格に対してどのような想いが込められているのか。

フェアトレードを通じたビジネスの実践知を形式知化し、次世代の起業家に継承していきたいと考えています。
そして、共感市場や共感社会を形成し、起業家の応援する消費者を増やせたらいう想いから事業を行っています。

共感起業大全におけるフェアトレードの実例を多数掲載した思い

起業家教育、起業に関わる過程において、ぜひフェアトレードを知って欲しいという想いがあります。
結果的にフェアトレードのビジネスをするかどうかは別として、社会の考え方やビジネスのモデルとして、参考にできることは多いのです。

もしできることなら、この本がそういった教育で活用されることも嬉しいし、また私自身が伝えていきたい。
そしてフェアトレードへの関心や共感を通じて、それぞれのキャリア形成に自らの挑戦としての起業を未来に据えることができれば、きっと未来は素敵な社会を描くことができるでしょう。

共感起業大全が、何かの役割を担えればと思い、書かせていただきました。

<共感起業大全における、フェアトレードの掲載内容>

  • より良い社会をつくる(SDGs/エシカル/フェアトレードの現代における扱い)/ p.25

  • ビジネステーマを見つける(シサム工房の水野社長の起業動機の紹介、エシカル消費におけるフェアトレードの紹介)/ p.108

  • 違和感への気づきかた(フェアトレードのTシャツと一般との価格差などを紹介)/ p.138

  • 社会のニーズの捉え方(社会課題解決のテーマとしてフェアトレードを紹介)/ p.208

  • 自分にできることの一例(フェアトレードを採用する例を紹介)/ p.214

  • マーケティングにおけるポジショニングマップとリフレーミング(フェアトレードチョコレートを例で紹介)/ p.300

  • 認証制度の利用(フェアトレードの認証ラベルの紹介)/ p.345

  • お金には色がある(フェアトレードで払われるお金には想いや期待が込められているという例)/ p.427

  • フェアトレードコインのビジネス誕生経緯 / p.439

  • 自身の製品へのこだわりの例として、フェアトレードを事例として紹介 / p.456

  • ギフト商品としてフェアトレードが採用される例 / p.472

  • フェアトレードショップ運営現場にある、顧客のニーズの例 / p.472

  • 価格の決め方の例として、フェアトレードチョコレートの価格を紹介 / p.488

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