ソーシャルビジネスで起業する人が、必ず身につけておきたい「5のマインド」

アントレプレナーシップ

共感起業大全では、ソーシャルビジネスや社会起業という言葉を使っていません。それは、ビジネスを「社会をより良くしていくために存在するもの」という大前提であること、そしてきっとその想いのある方は「共感起業」にピンときてもらえると考えたからです。
ですから、この本を読んでもらえれば、ソーシャルビジネスの始め方そのものだと感じてもらえるはずです。

ソーシャルビジネスは、社会性と事業性の両立が求められますから、普通にビジネスをするだけでも大変なのに、更にいろいろな葛藤があり負荷がかかります。
そして、私自身の経験、そして支援をしている中で、起業家自身が陥ってしまいがちなことがあります。
そこにはやっぱり軸のブレがあって、うまくいかないマインドがあると思っています。
(私がこの本の前提となる経験とその思いを本の前書きに書かせていただきました。)

ここでは、ソーシャルビジネスを目指す方に、この本に書いてある内容をもとに、必ず身につけておいてほしい5つのマインドとしてまとめました。

ソーシャルビジネスとは

ソーシャルビジネスには様々な定義があります。そして人によって感じるイメージも実態も様々です。
経済産業省の定義は次のようなものです。

地域社会の課題解決に向けて、住民、NPO、企業など、様々な主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組むのが、ソーシャルビジネス(SB)/コミュニティビジネス(CB)です。

出典:経済産業省

そして、3つポイントがあるとされています。

一般的に、定義としてのソーシャルビジネスには、主に3つのポイントがあります。
1.生活者の視点で地域や社会、市民の抱える問題、課題を明確にして解決を図る(社会性)
2.解決に向けた新しいアイデア、手法を発想して事業を実施していく(革新性)
3.事業が継続・発展し、経済的効果や雇用効果など経済的な成果を達成していく(事業性)

出典:経済産業省

一般的なイメージでは、NPOやボランティアを中心とした非営利活動をイメージするのではないでしょうか。
いわゆるこのソーシャルビジネスは狭義の意味で捉えられることが多くあります。

一方で、世界的な視点からみれば、マイクロファイナンスで社会課題を解決することを目指すグラミン銀行創設者のハマド・ユヌス氏の存在があげられます。また、フェアトレードなどもソーシャルビジネスとしての認知が確立されています。
いわゆるオルタナティブな(もうひとつの)方法という意味でソーシャルビジネスの認識があり、そしてビジネスをした結果としての資金をどう社会に活かしていくのかという視点を含めた理念がそこにあるのです。

経済産業省の定義が「地域社会の課題解決」から始まっていることもあり、日本のソーシャルビジネスのイメージが、社会福祉や国内の社会課題解決などのイメージが強いのかもしれません。

その一方で、ボーダレスジャパンのように80億円近い売上を出して世界との取り組みを実践している企業もあります。
ボーダレスジャパンのグループには、NPOから株式会社まで様々で、組織形態に囚われていません。

こうした、いわゆる市場原理を活かしながら、社会的なビジネスを解決していくモデルを採用しているケースを、ソーシャルベンチャーと呼ぶこともあります。最近ではソーシャルスタートアップであったり、ソーシャルという名前の誤解を避けるためにインパクトという言葉が使われることもあります。

実践してきたソーシャルビジネス

私もソーシャルビジネスを実践してきた1人です。
ただ、ビジネス畑の人間であるので、非営利であっても事業型にこだわっています。つまり、寄付や助成金などの外部資金をアテにしない経営です。
それらを受け取ることは、行政が担えない部分を委託して社会の役割を担っているわけですから、とても大切なことであると思います。

ただ私は、そうした外部資金は一時的なものとして捉えていく考えを持っています。社会の構造が変わる中で、税金などの資金用途は大きく変わっていきますし、持続可能であるとは言い難い面もあるからです。

創業したNPO法人コモンビートは、ソーシャルビジネスともいえます。
ミュージカルという手法を用いて、人材育成、地域活性化、文化芸術の普及、D&I、国際理解、ウェルビーイングなどに寄与していきたいと活動をしています。
いわゆる事業型NPOと呼ばれるもので、助成金をなどをアテにせず、自主事業・自己資金でほぼ20年間事業をしてきました。コロナ禍などに受けた税金や、クラウドファウンディングなどで応援いただいたこともありますが、すべて一時的なものです。

また、創業から経営に携わってきているHASUNAもまた、大きな枠組みでいうならばソーシャルビジネスの一つになるのかもしれません。ただ、ビジネスで投資を受けながら成長をしている企業としての面も強いことから、いわゆるソーシャルビジネスの言われ方をすることはありません。
でも、途上国の社会課題解決をしていくことや、地球環境を守っていくことなどに対して、積極的に事業を通じた取り組みを行っています。

森林浴で都市と森林を繋ぐ人材育成事業をしている森と未来もまた、ソーシャルビジネスといえるかもしれません。
木材産業以外の産業を生み出したい森林所有者とともに、森林浴で期待できる医療効果で森林の空間活用をするものです。
発起人のひとりとして創業から関わってきていますが、日本よりも世界からの注目があり、日本の貴重な森林資源の活用によって日本のプレゼンスを高めることに繋げていきたいと考えています。

ソーシャルビジネスのひとつであるフェアトレードの事業も行っています。
フェアトレードショップの運営、商品開発、フェアトレードを普及するための団体役員、そしてフェアトレードの店舗で使えるコミュニティ通貨などの運用です。
こうなると、どこまでがソーシャルビジネスなのかというと線引きが難しくなってくると思いますが、すべてフェアトレードに関わるビジネスでもあります。

ソーシャルビジネスと一般のビジネスとの、視点の違い

私はソーシャルビジネスといっても幅が広いので、いわゆる一般的なビジネスの現場とも背中合わせになることがよくあります。

また、一般企業のSDGsやCSVの研修、社会的事業や商品開発のコンサルティングにも関わることが多いので、その違いがよく見えます。

ひとことでいえば、目的が違うといっても過言ではありません。

一般のビジネスでは、社会課題は過程や手法であり、
ソーシャルビジネスでは、社会課題解決はゴールであるのです。

だから、話が全く噛み合いません。

ですから、社会課題の現場はただのマーケット。
「焼き畑で荒野にして、次の狩り場に向かう」
くらいの感覚で事業をする企業や人さえたくさんいます。

そうしたビジネスの手法が巷に溢れていて、そうした中でソーシャルビジネスの人がビジネスを学んでいくことはとても大変です。

ですから、この共感起業大全は、そこの徹底的な違いを解説しつつも、ビジネスとして実践できることを詰め込みました。

ソーシャルビジネスで起業する人が、必ず身につけておきたい「5のマインド」

ソーシャルビジネスで起業する人のほとんどは、社会にある課題を解決していきたい、誰かの想いの代弁者となっていくことを選んでいる人だと思います。

私は、そんな想いで起業する人たちとたくさん出会い、そして可能な限りの応援をしてきました。

共感起業大全は、ソーシャルビジネスで起業をしたい人の応援をしたいという想いから書いたような本です。

でもなかなか、ビジネスとして成立させていくことは難しく、そして、想いの空回りが起きてしまいます。

この共感起業大全に書かれていることで、ソーシャルビジネスで起業や経営をしていきたい人に向けて、絶対に身につけてほしいのは、次の5つのマインドです。

1.社会課題への共感は大切。でも、自己の価値観整理はもっと大切

社会の価値観を汲み取っていくためには、自身の価値観の整理が必要です。ビジネスでは日々たくさんの判断をしていきますが、そのひとつひとつの判断のベースとなるあなた自身の価値観の認識を、揺るぎのないものにしておかなくてはなりません。
社会の価値観は多様ですから、事業を進めるとあらゆる角度から価値観を問われることになります。そのひとつひとつの判断の軸をブレないためには、価値観をしっかり理解しておくことが大切です。
ビジネスは、社会や顧客との共感によって生まれます。誰かと共感をするにも、まず自身のことを知ることが何よりも最初に必要なのです。

2.想いの強さのぶんだけ、感情に意識を向けるスキルが必要。

あなたの想いは、きっと、なかなか伝わりません。
声を大きくしても、回数を多くしたとしても、うまくいかないことの方が多いと感じることでしょう。
でもそれは、普通のこと。既存の価値観を変えようとするのですから、ほとんどの人には届きません。
ですから、感情が空回りして、時には誰かのせいにしてしまいがちです。そんな誰もが陥る「沼」から出られなくなったり、ひとりよがりでビジネスにならないこともあります。ですから、自分の感情に意識を向けて賢くなることが大切なのです。

3.ビジネスを志すなら、本当の共感を理解しよう

趣味なら、一生かかって自己満足でも良いはずです。ビジネスという選択肢を持つのであれば、経済や社会、人とのつながりの一部になるということでもありますから、自分勝手にというわけにもいきません。
しかし、想いとお金とのバランスをとることは難しいと感じるでしょう。
そこで大切なのは、共感という言葉を深く理解することです。共感は同情ではありません。そして、共感をマーケティングで乱用するとむしろ反感が生まれます。
共感は、頭と心との2つのバランスが大切です。そして、共感はスタートでもゴールでもありません。共感が育まれるステップを理解して、応援されつづける関係づくりをしていきましょう。

4.課題解決より、価値創造

ソーシャルビジネスというと、社会課題解決をゴールに置きがちです。もちろん社会課題解決を目標に置くことは間違っていませんが、本当に描きたいビジョンは、解決の先に広がる世界ではないでしょうか。
一般的に必要と言われているビジョン/ミッションも、解釈によって作り方が大きく変わりますし、ビジネスモデルもまた、課題を直接解決することだけでは、顧客の本当の価値を生み出したとはいえません。
目の前の人と支えることも、もちろん重要です。でも、その後ろにはあなたを待っている長い行列があるのです。
視点を遠くに見据え、顧客の想像を超えた価値を提案していくことこそが、共感が生まれ支えられることに繋がっていきます。

5.ビジネスは社会のもの

起業家は、起業や経営で苦労をしますから、そのぶんだけ事業や組織やお金を自分の所有物だと勘違いすることがあります。これだけがんばったんだから、ご褒美があって当然だと見返りを求めがちです。ですから、自分がコントロールできないと気が済まないし、いつまでも組織に居続けて、そして事業を未来に引き継いでいこうという人が現れず、せっかくの事業も途絶えてしまいます。
事業は社会によって生まれ、顧客によって支えられ、経済の中で役割を担い、仲間によって組織は生きています。
起業家はそのきっかけをつくり、世の中に生み出すという役割ですが、すべての人の想いと関係性で生まれた事業ですから、所有物ではありません。
ですから、自分の役割を担う期間を決めて、全力でそこを担うという起業の方法もあるのです。

本来は、すべての事業がソーシャルビジネスであるべきだと思います。でも実際にはそうではありません。でも、上記で挙げた5つの視点は、特に現代のビジネスにおいては、あって当然のことではないかと思うのです。

すでに、こうしたビジネスに取り組んでいる人がたくさんいます。
そんな先駆者たちの背中を見ながら、そして今度は、あなたがその役割をになっていく番です。
ぜひ、みんなで素敵な社会を切り開いていきましょう。

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