小学生の子ども2人だけで、1週間の旅に出る 〜10代に経験した段取り、冒険

子育て

時刻表の旅

小学校もあと少しで終わりという年の暮れ、私は友達と鉄道の時刻表を見ていた。

ここの電車を乗っていくと、
この駅に辿り着いて、
ここの橋を渡って、
この島に行って・・・

 

プラレールやダイヤブロックばかりで遊んでいた私は、なんでも想像するのが大好きだった。

 

大きな建造物をダイヤブロックで作ったり、

プラレールで長い線路を作ったり、

工作をしたり土で遊んだり・・・

 

想像の先がどんな場所か、どんなモノになるのかを楽しむことが好きだった。

時刻表はそんな私の想像を満たすのにピッタリだった。

 

線路は続くよどこまでも。

 

時刻表の鉄道路線図の中で何度も旅をした。

 

この時間に乗ると、この時間に着く
乗り換えをするなら、この電車に乗れる

 

時刻表は、私の知らない場所にたどり連れていってくれた。

それも、確実に。

 

その日の私と友人の時刻表の旅は、その頃に住んでいた名古屋から、西の方へと向かった。

そして2人で辿り着いたのは、山口県。

そこにはSL山口号が走っていた。

子どもながらに、SL(蒸気機関車)は憧れた。

電気で動くスマートな電車も好きだったが、

 

黒い大きな巨体の鉄の塊が、
モクモクと煙を上げ、
蒸気の爆音を鳴らしながら進む

 

YouTubeもない時代。

写真では見たことが何度もあるが、テレビで少し見たことがあったかどうか。

 

私たちはその蒸気機関車が走る姿を想像し、そして憧れを感じた。

 

SL山口号に乗りたい

小学6年生の考えた、旅の計画

SL山口号が走っているのは、JR山口線。

瀬戸内の新山口駅から、山陰の津和野駅までの、片道2時間の旅。

路線図を見てそのルートを辿ってみる。

津和野駅からそのまま日本海に出れば、山陰本線から回って帰ってこられる。

 

鉄道の線を辿っていったら、行きたい場所に行って、そして元の場所に戻って来られる。

 

それは本当なのか?

 

私と友人は、時刻表をめくって、どの電車に乗ればそれができるのか追っていった。

電車に乗り継いでいけば、本州の西側を一周して帰って来られる。

路線図の地図の上の線を、ただ指でなぞって戻って来たわけではない。

時刻表で乗るべき電車を乗り継いで戻ってこれたのである。

 

空想ではない、もはや現実の旅だ。

 

大人には当たり前の話だが、子どもの私たちにとっては、大きな発見だった。

私たち2人は、大興奮をしていた。

 

電車は乗り継いで行ける。
あとは、運賃だ。

 

2人が選んだのは、青春18切符。

各駅停車乗り放題の切符。

子ども用の切符はなく、大人と同額。

当時は5枚で1万円。

1日2000円でどこまででも乗れる。

 

1万円で5日間の旅なら、行けるかも。

 

小学6年生の年末の私たちにとっては、お年玉をもらえれば、行ける金額だった。

そして私たちはもう1度、5日間でSL山口号に乗って帰ってくる旅の計画をした。

時刻表を辿り、各駅停車に乗って、夕暮れになるまで走って宿に泊まる。

ただ電車に乗っているだけではもったいない。

小学校の教科書で出てきたところに行こう。

 

1日目は、広島で原爆ドームを見て泊まろう。

2日目は、山口で泊まって、翌朝のSL号に間に合うようにしよう。

3日目は、SL山口号に乗って日本海に出る。

4日目は、鳥取砂丘に行って泊まろう。

5日目に、名古屋に帰って来よう。

 

宿泊場所のことはよくわからなかったが、国民宿舎というものがあるということが、時刻表を見てわかった。

 

時刻表も、泊まる場所も決まった。

あとは、親を説得するだけだ。

 そして、小学生2人は、5日間の旅に出た

こうして私たち小学6年生の2人は、子どもだけで旅をした。

思い返せば、いろいろなハプニングはあったのだが、無事に帰ってこられた。

この旅に出るまで、1人で移動したのは市内、それも中心街くらいのもの。

県外に出ることさえ、家族と一緒だった。

それなのに、私の親はよく行かせたものだと思う。

 

携帯電話もなく、インターネットもない時代に。

 

親になったいま、その度胸は凄いなぁと実感する。

 

・・・相当心配だっただろうに。笑

当時の山陰を走る電車には、乗降ドアさえなかった。

そのステップに座って流れる景色は、今でも覚えている。

 

スタンドバイミーのような世界、そして冒険

 

この思い出は、30年以上経った今でも、場面毎に鮮明に覚えている。

 

ドキドキしていたこと

寝坊をしたこと

切符を落としたこと

カメラをなくしたこと

 

まあ、いろいろあるけれど、

 

とにかく、ワクワクしていた

 

小学生にしては、壮大な計画だったし、未知なる冒険だった。

でも、計画したことは、実行できた。

 

段取りをすれば、
必ず目的は達成できる

 

子どもながらに、そんなことを感じていたにちがいない。

この経験は、とても大きな自己肯定感(自分自身を認められること)を味わった瞬間だっただろう。

 

目的を達成するために

すべきことが何かを考えていく段取り

鉄道という段取りされた仕組みを使って

自分たちで行き方を描くことのできた時刻表

理論上で行き着ける場所

実際に行き着いた場所

時刻表と地図を片手に

自分たちの場所をGPSのように辿る

ハプニングにもマケズ

わからないことがあれば、聞くべき人に聞く

子どもだけで宿にチェックインをして

子どもだけで夕食をする

毎日、公衆電話から家に報告をして

子どもだけで寝る

最終日に、寝坊をして飛び起き

布団もなにもかもそのままで旅館を飛び出す

予定の電車はすでに次の駅

次に来た特急電車に乗り

2人でトイレに入ってじっと息を潜める

駅に着いた特急から注意しながら降りる

そして後から来た、予定の電車に乗り込む

初めて見る景色

初めて泊まる旅館

初めて乗る電車

初めて感じる方言

初めての焦り

初めての高揚感

これまでにない達成感

 

今日、6歳の息子に時刻表を買った。

 

時刻表1 時刻表3 時刻表2

 

まだ、漢字は読めないけれど、路線図は指で辿れる。

 

いつか、「自分で行きたい」と言ってくれる日が来ることを夢見て。